大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和49年(ワ)1300号 判決 1975年12月23日

原告

有限会社野々山不動産

右代表者

野々山久雄

右訴訟代理人

山下寛

被告

金井謙伍

主文

一  被告は原告に対し、金三〇〇万円と、これに対する昭和四九年一〇月九日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判<省略>

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  原告は昭和四八年二月二八日、被告との間で、横浜市磯子区岡村町字仲ノ町一二一番一山林三九三平方メートル(以下本件土地という)を次のとおり買い受ける契約を締結した。

(1) 売買代金 金七〇〇万円

(2) 手附金 金一〇〇万円

(3) 代金の支払方法

手附金一〇〇万円は契約締結と同時に、残代金のうち金一五〇万円は昭和四八年三月二八日、残金四五〇万円は同年四月二五日限り各支払うこと。

(4) 売主は昭和四八年四月二五日限り、買主又はその指定する者に対し、本件土地の所有権移転登記手続をなすこと。

(5) 買主は本件土地を転売のために取得する。

(6) 売主は本件土地につき、現状のままで(造成せずにの意味)建築確認がおりることを保障し買主の請求があつた場合、売主は自己の責任と負担において建築確認をとること。

2  不法行為責任

(一) 被告は右売買契約締結当時、本件土地は現状のままでは建築確認がおりないことを知りながら、現状のままで建築確認がおりることを保障する旨を原告に告げてその旨原告を誤信せしめたうえ右売買契約を締結せしめた。

(二) 原告は前記契約に基づき売買代金七〇〇万円を支払い、本件土地の所有権移転登記を受け、本件土地上に木造平家建居宅二棟の建築確認をとつてくれるよう被告に請求したが、被告は右建築確認の手続をなさず、そのため原告が右手続をなしたところ、本件土地は現状のままでは建築確認がおりないことが判明した。

(三) 右のとおり被告が原告に本件土地を売却せんがために故意に現状のままで建築確認がとれる旨虚偽の事実を告げ原告にこれを信頼させたことにより原告に後記損害を蒙らせたものであるから、被告は民法七〇九条によりこれを賠償する義務がある。

3  損害

(一) 金三五〇万円

建築確認がとれない場合の本件土地の価格は金三五〇万円相当であるところ、原告は被告に代金七〇〇万円を支払つたものであり、これにより原告は金三五〇万円の損害を受けた。

(二) 金三八〇万円

原告は本件土地を訴外株式会社大蔵屋(以下訴外大蔵屋という)に現状のままで建築確認を保障して金一〇八〇万円で売却したが、建築確認がおりないため、右契約は解除され原告は金三八〇万円の得べかりし利益を喪失した。

(三) 金二〇万円

原告は訴外大蔵屋に対し右契約解除の損害金として金二〇万円を支払つた。

(四) 金二〇万円

原告は訴外大蔵屋との契約にもとづき建築確認がとれるよう訴外白井紀行に協力を依頼し、そのために金二〇万円を支払つた。

(五) 金五六万円

原告は被告が建築確認の手続をしないので、訴外大蔵屋との契約履行のためやむなく昭和四八年七月初め訴外小田切建築設計代願事務所に建築確認申請の代行を委任し、昭和四八年一〇月一六日金一四万円、同年一二月五日金二一万円、同月二六日金一一万円、同四九年一月三〇日金一〇万円を各支払つた。<以下、省略>

理由

一不法行為責任について

請求原因1の事実および原被告間における本件土地売買契約締結に際し被告が原告に対し現状のままで建築確認がおりる旨を告げた事実は当事者間に争いがない。

<証拠>によれば、被告は昭和四八年三月三〇日に訴外新井一郎より訴外港東不動産を仲介人として本件土地を購入したのであるが、その際、本件土地は急傾斜崩壊危険区域内にあるため現状のままでは建築確認のおりないことを知つていたものと認めることができ以上の事実と<証拠>を総合すると、原被告間の売買契約締結時において被告は現状のままでは建築確認がとれないことを知りながら、原告に対し、現状のままで建築確認がとれることを保障する旨を告げ、原告をしてその旨誤信せしめて売買契約を締結した事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

建物建築用地として土地を売買する場合において建築確認がおりるか否かは重大な要素であるから建築確認がおりないと知りつつ、建築確認がおりるようなことを告げてその旨誤信させ、売買契約を締結させることは詐欺に該当し、被告の右行為は不法行為を構成するものといわねばならない。よつて被告は右不法行為により原告に生じた損害を賠償する義務がある。

二損害額について

(一)  <証拠>を総合すると、建築確認がとれない場合の本件土地の価格はせいぜい金三五〇万円程度が相当であること、しかるに原告は被告の「現状のままで建築確認がおりる」旨の言を信頼し売買代金として金七〇〇万円を支払つた事実が認められ、右事実によれば原告は被告の不法行為により金三五〇万円相当の損害を蒙つたことが認められる。

(二)  <証拠>によれば、原告が訴外大蔵屋に対し昭和四八年八月三一日現状のままで建築確認がおりることを保障して代金一〇八〇万円で売却した事実および右売買はその後建築確認がおりなかつたために合意解除された事実が認められる。

ところで、売主が瑕疵ある物件であると知りながら瑕疵がないと相手方に虚偽の事実を告げてその旨誤信させ売買契約を締結させた場合の損害賠償額は、目的物に瑕疵があることを知つていたならば買主が蒙らなかつたであろう損害即ち信頼利益の賠償であつて、目的物に瑕疵が存しなかつたら買主が得たであろう利益即ち履行利益の賠償ではないと解するのが相当である。しかるに、原告が主張する得べかりし転売利益の喪失による損害は正に右履行利益の賠償を求めるものであるから、右転売利益相当の損害額を認容することはできない。

(三)  原告は訴外大蔵屋に対し本件土地の売買契約解除の損害金として金二〇万円を支払つた旨主張し、<証拠>中には、これに沿う部分があるが、右供述はたやすく信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠がない。したがつて右損害は認められない。

(四)  <証拠>によれば、原告は昭和四九年三月二日訴外白井紀行に対し本件土地の建築確認申請に関する謝礼金として金二〇万円を支払つた事実を認めることができるが、右金額の使途に不明な点が多く、特に被告の前認定にかかる不法行よつて支出を余儀なくされたものと認めるに足る証拠はないから、右金員の支出は本件不法行為と相当因果関係に立つ損害とは認められない。

(五)  <証拠>によれば、原告は被告が約定どおりに建築確認申請手続をしないので、訴外大蔵屋との契約履行のためやむなく訴外小田切建築設計事務所に、建築確認申請の代行を委任し、その費用として昭和四八年一〇月一六日金一四万円、同年一二月一五日金二一万円、同月二六日金一一万円、同四九年一月三〇日金一〇万円合計金五六万円を支払つた事実を認めることができるが、前認定のとおり右費用は、原被告間の売買契約の内容として被告の責任と負担において建築確認をとることになつていたにもかかわらず、被告が右債務を履行しないため原告が被告に代つて建築確認をとろうとして支出した費用であり、これを被告の債務不履行責任として請求するなら格別、建築確認がとれる旨告げて原告を誤信せしめて本件契約を締結せしめたことと右支出の間に相当因果関係を認めることはできない。

三抗弁について

被告が原告に対し、昭和四九年中に金五〇万円を弁償したことは、当事者間に争いがない。従つて、被告は原告に対し本件損害賠償として前段認定の損害金三五〇万円から右弁償金五〇万円を控除した金三〇〇万円を支払うべき義務がある。

四結論

よつて、原告の本訴請求は、金三〇〇万円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和四九年一〇月九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(山田忠治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例